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「古墳と植物の共生 その2」人に寄り添ってそこにある。冬の木立さえ美しい古室山古墳

2023.02.08 / 郡 麻江
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冬枯れしていても青空に映えて美しい古室山古墳。人の手が行き届きながら、自然との共存が保たれている。

「古墳と植物の共生 その1」では、多くの人がイメージする“古墳は緑に覆われたもの”というのは、事実とは異なり、古墳が築造された当時は、緑の森ではなく、表面に石が葺かれ灰色がかった人工的な姿をしていたという話を書いた。今回はその続きを。

長い年月の間に、墳丘に鳥たちが種子を含んだ糞を落とし、風が種子を運んできて、植物が芽吹き、根を張って、古墳全体を覆い、古墳は森のような姿になりながら、周囲の風景に溶け込んで、人間の暮らしに寄り添ってきた。約1500年もの間、姿を消した古墳も多いけれど、一方でその地域の大切な遺産として大切に守られてきた古墳もある。

古市古墳群にある古室山古墳(世界遺産登録)もその一つだ。「その1」で紹介した津堂城山古墳の少し後、4世紀末〜5世紀初頭に築造された墳丘長150mの前方後円墳で、筆者が最も好きな古墳の一つだ。とにかく見目麗しい古墳なのだ。訪れた日は真冬だったけれど、冬枯れの景色でさえ、晴れやかで美しい。青空がよく似合う古墳でもある。

「その1」でもご登場いただいた藤井寺市教育委員会文化財保護課主幹(世界遺産担当)の山田幸弘さんは古室山古墳との付き合いがとても長く、この古墳の保存の方向性を決める重要な役割を担っていた。「この古墳は昭和の頃まで果樹園に利用されていました。周りに陽を遮るものがなく、日当たりが良かったためだといえます。主に柿が植っていたのですが、古墳の保全と景観を考えて、整備することになったんです。どの木を伐採して、どの木を残すか?見た目のバランスも大切ですし、人が安全に登りやすいか?などの問題もあります。かといって、あまり人の手を加えると人工になりすぎて、古墳本来の価値が失われてしまうので、本当に悩ましい問題でした」。

古墳の保存には、次のようなポイントがあるそうだ。
1.景観(できるだけ当時のままの姿を見てもらう)
2.安全性(登れる古墳なら登って危険はないのか?石室に入っても大丈夫か?など)
3.眺望がいい(登れる古墳の場合、墳頂から見る景色も魅力になるから)
4.手入れがしやすいこと(雑草や藪に覆われすぎないように、また古墳の姿をありのままに残しつつ、古墳を守っていく方法を探る)
5.1〜4それぞれについて、それぞれの古墳にとってのベストウエイを探っていく。

「古室山古墳は、果樹に加えて樹林が深く茂って、鬱蒼としていたんです。そこでまず、この美しい墳丘のかたちを見て欲しいと考えて、墳丘が見やすいよう木々の伐採を行ないました。放っておくと、木の根が地中の奥深くに入りこんでしまって、古墳を傷つける危険性があるので、木々が大きくなりすぎないよう、今も定期的に伐採をしています。また、木が密集しすぎて下草がなくなって裸地になると、表面の土が崩れてしまうので、日照条件などにも気を配っています」。古室山古墳のように登れる場合は、人が薮や切り株などに足を取られたりしないよう、安全のために定期的に草刈りを行なっているそうだ。

撮影:保田紀元。桜と緑のコントラストが鮮やかな春の古室山古墳。花見を楽しみに多くの人で賑わう。

墳丘の北側には桜の木が多くあり、春にはたくさんの人が花見に訪れる。墳頂には果樹園だった頃の名残りの、形の良い柿の大木が数本、見た目のバランスもよく生えていて、秋には朱色の大きな柿がたくさん実をつけて、明るい美しさに包まれる。墳丘の南側には紅白の梅がまだ寒い季節から、良い香りを漂わせながら、可憐な花々を見せてくれる。錦秋の姿も素晴らしい。木の葉が一斉に色づき、ため息が出るほどの華麗な姿を堪能できる。

撮影:保田紀元。なんと見事な紅葉!墳丘のくびれがまたグラマラスで綺麗なのだ。

人でいう人生、古墳にとっては「墳生」といったらいいのだろうか、1500年の時を経て、今、そしてこれから、古墳はどのように保存されていくのがベストなのだろう。

「ジャストこれが正解!というものはないでしょうね」と山田さん。本当は手を加えずに、自然のままが古墳にとってよいのかもしれないけれど、自然任せにしすぎると木々が生え、雑草に覆われて、古墳を傷めてしまったり、見た目も美しくなくなってしまう。

「そのバランス、ちょうどよい塩梅を探っていくのが、僕らの仕事やと思います。次の世代の人たちへ、そういう思いごとバトンをつなげていきたい」と話す山田さんの視線には、古墳愛が満ちている。

撮影:保田紀元。南側の後円部の麓には梅林が。紅白の可憐な花が咲き乱れる。

人に寄り添う古墳、人に愛される古墳はいいなあ。やはり、この古墳も幸せな古墳だとおもう。そしてその背景には、山田さんのように、古墳をいかにして守り、伝えるかを日々考えてくれる専門家がいるということを忘れてはならないだろう。

振り返ると、古室山古墳は青空の下で日差しをいっぱいに受けて輝いている。やっぱり青空がよく似合う古墳だ。「また会いに来るよ」、そんなふうについ声をかけたくなる、古墳にはそんな魅力があるのだ。

「古墳と植物の共生 その1」はこちら

■取材・文:古墳を愛するライター・時々添乗員 郡 麻江(こおり まえ)
出版社勤務を経て、フリーランスライターに。2018年、『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市89基』(株式会社140B)にて、翌年にユネスコ世界遺産に認定された百舌鳥古市古墳群の89基を専門家とともにすべて巡り、執筆。今までになかった新しい古墳のガイド本として注目を集める。翌、2019年には、関東1都6県の古墳約170基を各地の専門家とともに巡り、『日帰り古墳 関東1都6県の古墳と古墳群102』(ワニブックス社)を出版。2020年には「旅程管理業務主任者(総合・国内)を取得し、古代および世界遺産専門ツアーの添乗員として、ライターとのダブルワークをスタートさせている。「日本旅のペンクラブ」会員。

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
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