京都・祇園の白川からほど近い場所にある「喫酒幾星（きつしゅいくせい）」は、京都はもちろん日本でも珍しい薬草酒（ハーブリキュール）を専門に提供するバーです。薬草酒とは、アルコールの原液に大地から採れる薬草を漬け込んで作ったもので、その起源は古代ギリシャまで遡るといいます。「喫酒幾星」を立ち上げたのは、オーナーでバーテンダーの織田浩彰さんです。薬草酒に魅せられ、製造技術を学ぶために渡欧し、10年以上に渡って日本の薬草を生かしたカクテルを提供してきました。

織田さんは、「喫酒幾星」を始めたきっかけについて、「薬草酒は西洋では嗜好品とされ、美味しさにフォーカスされてきましたが、東洋では医薬品と認識されてきました。本来、東洋にはたくさんの薬草酒がありますが、なにに効くのかということが前提でした。薬草酒に魅せられてヨーロッパでその製造技術を学びましたが、東洋人として西洋のモノマネをしたのでは面白くありません。そこで、東洋の植物を使って嗜好品としての薬草酒を作ろうという考えに至りました」と、説明します。

比叡山の大文字山裏には、織田さんの私設薬草園があり、100種類以上の薬草が植っています。山の斜面にある薬草園は1ヘクタールほどの広さで、大和当帰（ヤマトトウキ）を始め、山茱萸（サンシュユ）、玄圃梨（ケンポナシ）といった植物を育てています。このなかから季節ごとに10種類ほどの薬草を採取し、カクテルにして提供しています。

「薬草園にしっかりと手を入れてこそ、植物も元気に育ちます。私がこの薬草園を引き継いだ時はとても荒れていましたが、しっかりと手を入れることで今ではさまざまな薬草が採取できます。薬草酒は味はもちろん香りも楽しめるのが魅力で、例えばここで採取した玄圃梨を使ったカクテルは梨とキャラメルのようなフレーバーが特徴です」と、薬草酒の楽しみ方について織田さんは話します。

「喫酒幾星」には、国内外の100箇所以上の蒸留所から仕入れたリキュールがあり、山形の美しい紫菊が入った「菊のバイオレットフィズ」や菊花が浮かぶ「クリサンセマム」、そして「金木犀のカクテル」や「ハマナスの花のカクテル」「菖蒲のジントニック」といった見た目も鮮やかで美味な薬草酒が楽しめます。

織田さんは、薬草酒は香水の文化に近いと感じているそうです。「香水は人それぞれに香りの好みがあります。喫酒幾星では、お客さまに香りや味の好みをお聞きして、薬草酒をお作りします。カウンセリングのようなものを通して好みの1杯を見つけていくわけです」。

織田さんは、千葉県大多喜町のミトサヤ薬草園蒸留所とのコラボレーションでボトルドノンアルコールカクテルを監修し、京都市京セラ美術館内のカフェのカクテルの監修を手掛けるなど、活動の幅を広げています。京都を拠点に、薬草酒の文化と魅力を発信しています。

さらに、昨年末にはノンアルコールスピリッツ専門蒸溜所とノンアルコール＆カクテルバーを併設した「幾星 京都蒸溜室」を新たにオープンしました。高瀬川に架かる六軒橋を渡り、木屋町通を越えた菊浜エリアにある築約140年の京町家を改装しました。SPRING SPRINGの小西登さんがディレクションを手掛け、ノンアルコールを志向する時代性にあわせて、蒸溜所にバーを併設しました。お酒を飲む人も飲まない人も、バーの非日常生を楽しめる場所を作りたかったという思いが結実した店です。

日本では薬草酒を常飲する人はまだ少ないこともあり、薬草酒との新しい出会いに新鮮な驚きをする方も多いそうです。季節の移り変わりや植物が持つ力を感じながら、「喫酒幾星」で自分好みの1杯を見つけてみてはいかがでしょうか。

■「喫酒幾星」店舗概要
所在地：〒605-0086 京都府京都市東山区弁財天町15 スペース新橋３F東
TEL：075-551-1610
営業時間：16:00〜1:00
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■「幾星 京都蒸溜室」店舗概要
所在地：〒600-8114　京都市下京区六軒通高瀬川筋東入早尾町164番地２ １F
TEL：075-708-2091
営業時間：14:00〜22:00（水曜休）
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