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「世界一美しい香りとの出会いを求めて」 植物や樹皮で精油づくりをする菊池友来さんの南阿蘇での暮らし

2025.06.27 / 高村学
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◾️「自然と一体になれた」と感じた南阿蘇での暮らし
「水が生まれる郷」として知られ、豊富な湧水の恩恵で希少な植物が数多く自生する熊本県・南阿蘇。阿蘇カルデラに臨む田園地帯が広がり、農業や林業が盛んなことでも知られています。植物調香師、芳香植物蒸留家として、美しい香りをつくり出している菊池友来さんは、ちょうど1年ほど前、生まれ故郷からほど近い南阿蘇に「香設計アトリエ」を構えました。南阿蘇では、庭で摘んだジュニパーなどのハーブ、そして近隣の森で採取したヒノキやスギの樹皮を蒸留し、オリジナルの香りづくりに取り組みながら、自然とともにある暮らしを提案しています。「自然と一体になれた自分をなんとなく感じています」と、南阿蘇での日々について話します。

「南阿蘇で暮らしていると、四季が目の前に現れるのを感じます。朝の景色は一日たりとも同じ表情はないですし、遠い空を見ても毎日、印象が異なります。庭の草木や花々もそうですし、今からこういう季節が訪れるということを植物が先に教えてくれている気がします。阿蘇は高冷地で湧水も豊富なので、植物にとって自生しやすく、まるで植物の宝庫だと感じています」。

菊池友来さんは、その「植物の宝庫」の阿蘇の森に分け入り、精油づくりに必要な旬な草花や樹木を探し求めます。「森では、季節に合わせてそこらじゅうに野草が顔を出してくるので、必要な分だけを採取しては香りを抽出しています。香りがなくても、効能がある植物もありますので、足元に広がっているものはほとんどすべて私の身体に活かせるものだと思いながら採取しています」。最近は特にウッドの香りに魅力を感じているといい、「土の香りがして、より地球に近いような印象です。ゼラニュームやローズといった香りもすごく好きですが、ウッドの香りにはフローラルにない力強さがあります」と語ります。

香りに対する繊細な感性は、南阿蘇という大自然の中でさらに研ぎ澄まされているのかもしれません。「春から夏に向かう時期であれば、このあたりは自生する鈴蘭の花の甘い香りで満たされます。香りを嗅ぎ分ける感性は、本来は人間の本能に近いところにある能力ではないでしょうか。嗅覚はもっとも原始的な脳の器官のひとつですし、人間たる根源的な活動においてとても大事だと感じます。自然が発する香りというエネルギーを、私たちはもっと丁寧に感じ取るべきかもしれません」。

■香りを通して「本来の自分に還る」サポートを
菊池友来さんを香りや植物に結びつけたのは20年ほど前、病弱だった長女でした。身体が弱かったために薬に頼らざるをえなかった幼少時に、1日でも早く薬を手放してあげたいという思いから辿り着いたのが自然療法でした。文献を片っ端から読み漁り、独学で植物療法や芳香療法といったものを学んでいきました。できるだけ自然にあるものを摂り入れていくことで長女も治癒し、薬草や精油で心身を癒していくことが生活の一部になっていきました。こうした経験を伝えていくために始めた活動が、アロマセラピストを養成するためのスクール「&SCENT」や芳香植物を学ぶための講座「季節の香りの会」へと繋がっていきました。

子どもの体調を守るために始めたことでしたが、自身の心身にも変化があったといいます。「それまでは自己実現をしなくてはいけない、自分らしさを確立しなくてはいけないといった強迫観念のようなものがありました。それが植物療法や芳香療法に出会ってからは、『自分らしさ』にまったくこだわらなくなりました。もっと根源的で本質的な『人間らしさ』をもって生きている喜びが、そうした強迫観念にまさったような感覚です。かつての私のように、外側にばかりとらわれている自分が苦しくて悩んでいる方も多いかもしれませんが、調香や芳香の仕事を通して本来の自分に還れるサポートができればと思っています」。

■世界一美しい香りとの出会い
菊池友来さんは、植物の香りの効能だけではなく根底にある文化的側面を研究するため、日本各地の生産者や蒸留所を巡っています。「精油の文化は西洋が発祥でもあるので、フランスのグラースには行ってみたいと思っていますが、ここ数年は日本の植物を研究対象にしています。一番最初に訪問した蒸留所は、鹿児島県の開聞岳のふもとにある開聞山麓香料園でした。1941年から続く日本で最初のハーブ園で、ホウショウやローズ・ゼラニュームを蒸留して、皇室にも献上していた歴史ある施設です」。開聞山麓香料園では、40〜50年も前のネロリやサンダルウッドの香料を嗅ぐことができ、とても貴重な体験だったと話します。

宮崎県五ヶ瀬町にある宮崎茶房で行った「蒸留と調香の会」では、新しい香りとの出会いもあったといいます。「宮崎茶房がつくっているウーロン茶の茶葉を一日半かけて発酵させるのですが、発酵したあとの茶葉が本当に素晴らしい香りでした。茶の木は秋口に花をつけるのですが、茶の花にも可能性を感じています。南阿蘇の庭に自生する茶の花を集めて蒸留したのですが、それもまた本当に素晴らしい香りでした。ジャスミンにもローズにもまさる、世界一美しい香りに出会えたと思いました」。

菊池友来さんは今、自分の心身は自分で整えるという意識を若い世代にも持ってほしいという思いから、専門的な知見をもっとわかりやすく表現した商品の開発を手掛けています。阿蘇にある植物を活かしていく視点も深めて、地域の香りをもっとつくっていきたいとも考えています。書籍の発行に向けた取り組みもスタートし、芳香療法を教えるオンライン講座も始まりました。「自然の中に身を置くと思考はクリアになっていきますし、本当にやりたいことが湧いてくる瞬間があることを体感しています」。自然への深い敬意と探究心を持ちながら、自然と一体となっていくことで美しい香りをつくり出していく菊池友来さん。自然からの恵みを美しい香りへと昇華する菊池友来さんの香りを、一度ぜひためしてみてはいかがでしょうか。「本来の自分」にきっと還れるはずです。

プロフィール: 菊池友来
RIT inc. 取締役/ &SCENT 主宰
ファッションPRや建築設計職を経て、2010年より芳香療法、植物療法のレッスンをスタート。現在まで数多くのセラピストや講師を輩出している。2020年よりセラピスト向けのブランディングコンサルとしての活動もスタート。セラピスト向け起業コミュニティ、Maison de RITには全国から生徒が集う。2023年にファッションスタイリストの夫と共にRIT styling studioとして法人化。互いの経験を活かし、ファッションとライフスタイルにまつわる商品開発、執筆、プロデュース業で事業展開。2024年、南阿蘇に香設計アトリエをスタート。植物を用いた芳香空間デザインや、商品のプロデュース、季節の香料植物を用いた蒸留や調香の会を全国各地で開催。プライベートでは3児の母、湘南と南阿蘇の2拠点生活中。

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
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