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コラム「古典に咲く花」 第2回「撫子」

2023.10.26 / 月野木若菜
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撫子(なでしこ)の花と聞いて、何を思い浮かべますか? 「大和撫子」という言葉や、「なでしこリーグ」「なでしこジャパン」など女性に例えられることが多いのは、薄桃色や白の小さな花が清楚で可憐な印象を持っていることと、「撫でし子」という文字から、「撫でるほどかわいい子」を連想させることにも因るようです。

『万葉集』には、大伴家持の歌に「なでしこが花見るごとに娘子(をとめ)らが笑(ゑ)まひのにほひ思ほゆるかも」があります。

「なでしこの花を見るたびに、少女たちの笑顔の美しさを思い起こします」という意味ですが、越中に単身赴任していた家持が、奈良の都に残して来た妻を思い浮かべて詠んだ、「妻恋歌」とも言われています。

もう一首、家持が恋心を抱く従妹へ贈った歌に、「石竹(なでしこ)のその花にもが朝(あさ)な朝(さ)な手に取り持ちて恋ひぬ日無けむ」があり、これは「君が撫子の花であったら、毎朝毎朝手に取って恋しく思わない日はないだろう」という甘い囁きで、撫子に熱い想いを託しています。

『万葉集』から約四百年後の『枕草子』で清少納言は、「草の花はなでしこ唐のはさらなりやまともめでたし」と断言しています。現代語風に言いますと、「草の花といえば、なんてったって撫子。そりゃ唐のものは良いけれど、日本の河原撫子も、ほんと滅茶苦茶イイですから!」といった具合です。

「大和撫子」とは、奥ゆかしさのみならず、清少納言のように毅然とした凛々しい女性をも言うのかもしれません。そう思って撫子の花を見つめ直すと、どことなく、芯の強さも見えてきます。

撮影:高村 学   

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
Shungetsu Nakamura
Shungetsu Nakamura
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