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コラム「古典に咲く花」 第5回「梅」

2024.01.24 / 月野木若菜
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「大学入学共通テスト」に始まり、1月2月は受験シーズン。「学問の神」と言われる菅原道真を御祭神とする天満天神への合格祈願は、後を絶たないことでしょう。境内を訪れたら、是非、梅の木にも目を留めてみてください。この季節、道真公が生涯を通じてこよなく愛した梅の花が、「春告(はるつげ)草」の名の通り、春の到来を告げてくれます。

道真は、父方は学者、母方は歌人の家系に生まれ、幼少より聡明で学問・詩歌に秀で、五歳にして庭の紅梅を見て、『美しや紅の色なる梅の花阿呼が顔にもつけたくぞある』と詠んでいます。

「きれいな紅色の梅の花。その花びらを私の頬にもつけて飾りたい」という内容で、病弱で繊細な阿呼(道真の幼名)少年の、素直さや、あどけなさも感じられます。

それから五十年。道真は学者の身分から右大臣にまで昇り詰めるのですが、周囲に疎まれ、左大臣藤原時平らの計略に陥れられた後、太宰府へ左遷されることになります。京都を離れる前に、自邸の梅の木の前で詠んだのが、
『東風吹かば匂ひおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ』の、有名な一首です。

「春風が吹いたら、どうか、その香りを私の所まで遣(おこ)しておくれ、梅の花よ。主の私が居ないからといって、決して春を忘れはせずに」と、忸怩たる思いを隠しつつも、都を離れる切なさを梅に託しています。

実はこの梅の木、道真が生まれてこの方、共に育って来た、あの五歳の時に詠んだ梅の木そのものなのです。それ程に深い絆の梅の木ゆえに、『東風ふかば…』の歌に応えて京都から九州まで一夜にして飛んで行ったという「飛梅(とびうめ)伝説」なるものも語られ、現在は太宰府天満宮の本殿近くに、『飛梅』の銘を冠する梅の木が立派に根を下ろしています。『飛梅』は早咲きの八重で、他の梅に先駆けて開花。それを合図に、約二百種・六千本の太宰府天満宮の梅が綻びてゆくとは、まさに壮観なことでしょう。

千年を超える古の平安人に心を寄せて、馥郁たる梅の香りに包まれてみたいものです。

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華道家 中村俊月 Shungetsu Nakamura
Shungetsu Nakamura
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